第3回 弾性定数の測定
弾性定数とは
弾性定数(ヤング率,剛性率,ポアソン比)は構造物の強度設計をする際に欠かせない値であり、多種多様な材質、形状、温度での測定が必要とされております。
当社では、金属やセラミックスのJISに基づいた各種の測定装置を揃えて弾性定数測定の受託分析を行っております。
測定法は、@静的試験法、A横振動法、B超音波法の3種類の測定が可能です。
弾性定数測定に関するJIS規格は
・JIS Z 2280(金属材料のヤング率)
・JIS R 1602(セラミックの室温の弾性定数)
・JIS R 1605(セラミックの高温の弾性定数)が
あります。
静的試験法(コーイング法)
図1に示すような両端支持の板状試料(
d ×
b ×
L mm)の中央部に荷重(
P kg)をかけたときに生じたたわみ(
h mm)を差動トランスによって検出し、ヤング率(
E kg/mm
2)を(1)式から算出します。
E =(1/4)(
L 3/(
d 3・
b )(
P/
h ) …(1)
図1 ヤング率の静的測定
横振動法
横振動法は動的測定法の一つで、薄板状試料片に周波数1kHz前後で電磁的に共鳴振動を生じさせ(図2参照)、共鳴振動数を求め、(2)式からヤング率を算出します。
E =0.96535×10
−8×(
L /
d )
3(
g /
b )・λ
2 … (2)
L :試料片の長さ
b :幅
d :厚さ
g :質量
λ:共鳴振動数(Hz)
当社では板状試料の高温測定で300℃までは両端自由の自由共振法でヤング率を求める自作の装置を使用して測定を行います。
さらに高温の1100℃までのヤング率、剛性率、ポアソン比は高温測定装置(日本テクノプラス製、EG-HT型)で同時に測定しております。
図2 電磁的方法
超音波法
固体中に伝わる音波(縦波と横波)の伝わる速度がわかると、縦波音速と横波音速から縦弾性定数、横波音速から横弾性定数が求められます。
JISで定められている他の測定法では縦弾性定数しか求められないのに対して、超音波法では縦および横弾性定数、ポアソン比が得られる点が優位な点です。
この測定は高温測定の場合、試料に接着されたバッファーロッド(SUS304などの材料)を通して縦波超音波および横波超音波を伝搬させるので、特に横波超音波は容易な試験ではありませんが、長年培ったノウハウにより広い温度範囲にわたって正確な弾性定数を提供することが可能です。
測定原理は図3の配置に示すような基本構成で、平行平面をもつ試料(16mmΦ×10mm厚さが標準)の一面から超音波パルスを入射し、試料の両面間を多重反射させて超音波エコーを発生させます。
これをセンサーで受け、パルスエコー間の時間間隔と試料両面間の距離から超音波の音速、縦波の速度
V lと横波の速度
V sを求め、(3)〜(5)式からヤング率
E、剛性率
G、ポアソン比
v を算出します。
E =(
Vs)
2・ρ・[3(
Vl)
2−4(
Vs)
2]/[(
Vl)
2−(
Vs)
2 ] …(3)
G =ρ・(
V s)
2 …(4)
υ=(1/2)・[(
V l)
2−2(
V s)
2]/[(
V l)
2−(
V s)
2] …(5)
測定装置にはマテック社製MBS-8000型音速測定装置を使用し、その装置で高温測定が可能な冶具を考案、さらにバッファ−ロッドと試料間を横波が確実に伝播できるような接着法を開発し、1000℃以上の測定も可能としました。
これらの測定技術を駆使してガスタービン動翼材など異方性材料の高温弾性定数の測定も行っております。
図4は測定中のオシロスコープの画面で、画面の右上の数値、6.8944msは試料両面間を伝わる音波の所用時間を示したものです。図5にニチノール(50%Ni-Ti合金)の測定データを参考までに示してあります。
図3パルスエコーオーバーラップ法の基本構成
図4 Δtime付のオシロスコープの表示,横波超音波パルスエコー
(1000℃,試料厚み8.3mm,横波音速2400m/sec,材質SUS304)
図5 ニチノール(50%Ni-Ti合金)の測定データ
測定相談室
質問:
プラスチック・樹脂などのヤング率は測定できますか?
窓口:
これらは一般に粘性を含んだ粘弾性率として表されます。
あらかじめ加える振動数を指定して複素弾性率として報告可能です。
出典:金属,Vol.74 No.4 (2004), pp.90-91.