第8回 低温の熱膨張率、比熱、熱伝導率などの測定
低温熱膨張や低温熱伝導率
室温以下の低温度の熱物性値が問題となることがあります。家庭用や業務用の冷凍庫や冷凍機の材料、冬季低温地帯を走行する車両の構成材料や構造物、液体天然ガスの容器材料や輸送管とその埋設箇所の凍土、超伝導コイル材料などの設計や計画には、低温領域の熱膨張率や熱伝導率の正確な値が必要となります。
当センターでは液体窒素冷却による低温熱膨張率や低温熱伝導率の測定(−160℃〜室温の範囲)が可能です。
図1は低温押し棒式熱膨張計で測定した超不変鋼(スーパーインバー:32%Ni,5%Co,残りFe)の室温〜−196℃の冷却過程の収縮率〜温度曲線です。−150℃付近の変化はマルテンサイト変態によるものです。インバー合金(36%Ni,64%Fe)では−196℃までマルテンサイト変態は生じません。
図2は低温・熱線法で測定した含水粘土の熱伝導率〜温度曲線です。0℃を境に含有水分の固化とともに低温で急激に熱伝導率が上昇していることが見られます。
図1 スーパーインバーの冷却時の熱膨張
図2 木節粘度(水分40%)の熱伝導率
低温比熱や低温DSC
形状記憶合金のマルテンサイト変態、ゴム・エラストマーのガラス転移、不凍液の凝固点、化合物の相転移点など低温で正確に求めなければならない場合があります。
当センターでは−160℃〜室温の範囲の断熱型比熱測定、−100℃〜室温までの低温DSCの測定が可能です。
図3は断熱型比熱計で求めたニトリルゴムの比熱〜温度曲線で、−40℃付近の異常比熱はガラス転移によるものです。
図4は同じく断熱型比熱計で求めた硫酸アンモニウム[(NH
4)
2SO
4]の相転移の比熱〜温度曲線です。この比熱曲線からこの転移は潜熱をともなわない2次転移ということがわかります。これらの測定より転移点、転移熱、転移エントロピーが求められます。
図5は低温DSCで測定した冷却過程の水-エタノール系(40%エタノール、60%水)のDSC曲線です。−52℃付近の発熱ピークは市販のウイスキーでも現れ、熟成度の進んだもの程、ピーク高さが高くなることが知られています
1)。
図3 ニトリルゴムの比熱
図4 硫酸アンモニウムの比熱
図5 40%エタノール-水系の冷却DSC
参考文献
1)江原勝夫, 前園明一:金属,
64,12(1994),11.
出典:金属,Vol.74 No.9 (2004), pp.68-69.