第7回 固体の熱膨張率、ガラス転移などの測定
熱膨張係数
試料の室温における長さを
L0 。温度
T1 における長さが
L1 で、温度上昇により試料温度が
T1 から
T2 に上昇し、試料の長さが熱膨張して
L2 になった場合,平均線熱膨張係数α
mは次式で与えられます。
α
m=(
L2−
L1)/
L0(
T2−
T1)=(Δ
L /
L0 )/Δ
T …(1)
温度
T1 が
T2 に無限に接近した極限の場合、熱膨張係数αは次式で与えられます。
α=
[(
L2−
L1)/
L0(
T2−
T1)]=(Δ
L/ΔT)/
L0 …(2)
(2)式から膨張率Δ
L/
L0は次のようになり,熱膨張の測定は温度に対して(または時間に対して)Δ
L/
L0を測定します。
Δ
L/
L0=αΔ
T …(3)
熱膨張係数αと比熱
Cv との間には次のグリューナイゼンの関係式で結ばれています。
α=(γ
Cv)/(3κV) …(4)
ここでγはグリューナイゼン定数で、物質によらず1から3までの値をとり、κは圧縮率、
V はモル比容。
この式より熱膨張係数αは比熱
Cv と密接に結びついた熱力学量で、試料に変態などがある場合、比熱の変化と同様に熱膨張係数に変化が現れますから、比熱測定と同じように熱膨張測定は有力な熱分析となります。
熱膨張測定
当センターの熱膨張計は押し棒式熱膨張計(真空理工製)および熱機械試験機(真空理工製)を使用しています。
測定温度範囲:−190〜1350℃
圧力範囲:大気中または不活性気体中。
試料の形状、量:円柱状(4〜mm径×20mm高さ)
測定例
クロム鋼のα→γ 変態(図1)
図1の熱膨張測定は昇温過程で760〜810 ℃の温度でα→γ変態が生じています。
1000℃からの冷却では,10℃/minの冷却速度では500℃まで過冷され,γ→α変態は500〜300℃で生じていますが、加熱前のα状態には戻らず、γ相が残留していることを示しています。
図1 クロム鋼の熱膨張
エポキシ樹脂のガラス転移点(図2)
図2は熱硬化処理したエポキシ樹脂(角棒 5×5×10mm)の熱膨張曲線です。
約135℃に熱膨張係数に急激な変化が現れ、この現象をエポキシ樹脂のガラス転移といい、135℃をガラス転移点といいます。
ガラス転移点以上の温度域の熱膨張係数はガラス転移点を境に急激に増大しています。
プリント基板に利用する場合、ガラス転移点は重要な管理の対象物性値となっています。
図2 エポキシ樹脂の熱膨張
エポキシ樹脂の熱硬化の検査
エポキシ樹脂は熱処理により熱硬化させ、完全に固体化させて使用します。
適切に熱硬化されたエポキシ樹脂は、図3のAに示すような熱膨張曲線を示します。
この場合、ガラス転移点も明瞭に求められます。
これに対して図3の@に示すように、本来のガラス転移点の近傍温度で大きな収縮が現れることがあり、このようなエポキシ樹脂をモールド用に使用することは問題を起こす危険があります。
熱膨張測定はこのような検査に最適な検査法です。
図3 エポキシ・モールド樹脂の熱膨張
複合材料の熱膨張の異方性(図4)
炭素繊維を一方向に埋め込んだエポキシ樹脂板は、炭素繊維の繊維方向(@)の熱膨張とそれと垂直方向(A)の熱膨張は極めて顕著な異方性があります。
炭素繊維と垂直方向(A)ではエポキシ樹脂の熱膨張が支配的で、ガラス転移も見られます。
これに対して炭素繊維の繊維方向の熱膨張は炭素繊維の熱膨張が支配的になり、100℃以上で収縮が現れますが、垂直方向に比べて約1/50の伸縮量です。
図4 炭素繊維を一方向に埋め込んだエポキシ板の熱膨張
測定相談室
質問:
純鉄を700〜950℃の間で繰り返し加熱冷却して熱膨張を測定したところ、試料の長さが縮む方向に変化しました(図5)が何故ですか?
窓口:
それは鉄のα→γ変態の繰り返しにより結晶が粗大かして、そのためにある方向に伸びたり、または縮んだりするのではないかと思います。
図5 純鉄の繰り返し加熱冷却の熱膨張
出典:金属,Vol.74 No.8 (2004), pp.112-113.